【1523】 ◎ マジッド・マジディ 「運動靴と赤い金魚」 (97年/イラン) (1999/07 エースピクチャーズ) ★★★★☆

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カタルシスよりも余韻。アリが「走った」ことは、やがては妹にとって忘れられない思い出に。

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「運動靴と赤い金魚」(1997)    「運動靴と赤い金魚 [DVD]」[' 00年]「運動靴と赤い金魚 [DVD]」['05年]

運動靴と赤い金魚0.jpg 小学3年生のアリ(ミル=ファロク・ハシェミアン)は、修理してもらったばかりの妹ザーラ(バハレ・セッデキ)の靴を失くしてしまうが、家が貧しいため新しい靴を買ってもらえそうになく、怒られるのが怖くて、親にもそのことを言えない。妹が学校に行く時に自分の運動靴を貸してやるという日々が続くが、そんなある日、学校の掲示板にマラソン大会の参加者が発表され、その大会は、学校代表として数名が参加出来るもので、既に予選会は終了していた。しかしアリは、大会の3等賞品が運動靴であることを知り、教師に参加を哀願して単独でランニング・テストを受け、大会参加の切符を得る―。

運動靴と赤い金魚2.jpg モントリオール世界映画祭でグランプリを含む4部門を受賞し、第71回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた作品。初めて観た時は、イラン映画のレベルの高さに驚いたものの、何だかハリウッド映画の泣かせのテクニックを踏襲しているようで、しかも、結構唐突な終わり方をするため、それほど感動しなかったのですが、最近観直していい映画に思えたのは、歳のせいかも。

 脚本がまず上手いというか、1等ではなく3等を獲らなければならないという設定もそうですが、ラストはある意味、アンチクライマックスになっているわけで、そのことによって、観る者を"お決まりの感動" ではなく、余韻のある世界に導いている感じがしました。

運動靴と赤い金魚1.jpg 子役が兄・妹とも素人だったということを後で知り、改めて演出の見事さに感服。映像も秀逸で、一場面一場面が印象に残っていましたが、音楽は殆ど使われていなかったのだなあ。それでいて、これだけ心に滲みる情感を醸すというのは、結構スゴイことかも。

 通学に際して同じ運動靴を兄と妹が共用することが出来るというのは、イランの学校には二部制があり、女子生徒の授業が朝ならば男子生徒の授業は昼といった分離教育になっているためだそうですが、そうしたことだけでなく、イランの庶民の家での暮らしぶりや、如実な経済格差などが、静かに流れる映像と、淡々としたエピソードの積み重ねからよく窺えます。

 そして、いよいよマラソン大会。途中まで、"感動作品"にありがちなパターンで"盛り上げ"ますが、これらはすべて計算されてのことだったわけか。最初観た時は、彼がヒーローになるのがちょっと「お話」っぽいという感じだったのですが、観直してみて、やはり、この方がアリの内面の苦々しさが浮き彫りにされるように思いました。

 妹の欲しかった「赤い運動靴」はどうなってしまったのかとも思ったけれども、これも"大丈夫"、ちゃんと、父親の自転車の荷台に...。この辺りは、父親の仕事探しに際して、アリがその賢明さを発揮して父を助けたエピソードとリンクしているわけで、上手く出来ているなあ。

運動靴と赤い金魚 ポスター.bmp運動靴と赤い金魚3.jpg モントリオール国際映画 グランプリ受賞など数々の映画祭で賞を受賞し、福岡国際映画祭など内外の映画祭で公開された時のタイトルは「天使のような子どもたち」(Children of the Heaven)でしたが、「運動靴と赤い金魚」の方がいいと思われ、その「赤い金魚」は最後に出てくるわけですが、う~ん、こういう映画の終わり方というのは、なかなか他の作品では無いでしょう。

 フンと鼻を鳴らすようにしてアリの前を去っていく妹。しかし、アリが妹のために「走った」ことは、やがては妹にとって忘れられない思い出になるのではないでしょうか。

Bacheha-Ye aseman(1997)
「運動靴と赤い金魚」.jpgBacheha-Ye aseman(1997).jpg「運動靴と赤い金魚」●原題:CHILDREN OF HEAVEN (Bacheha-Ye aseman)●制作年:1997年●制作国:イラン●監督・脚本:マジッド・マジディ●製作:アミール・エスファンディアリ/モハマド・エスファンディアリ●撮影:パービス・マレクサデー●音楽:ケイヴァン・ジャハーンシャヒー●時間:88分●出演:アミシネスイッチ銀座.jpgル・ナージ/ミル=ファロク・ハシェミアン/バハレ・セッデキ/フェレシュテ・サラバンディ/ハッサン・ハッサンドスト●日本公開:1999/07●配給:エースピクチャーズ●最初に観た場所:シネスイッチ銀座2 (99-07-31)(評価:★★★★☆)
シネスイッチ銀座2 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)(地階273席)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)(3階182席)」

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This page contains a single entry by wada published on 2011年8月12日 23:47.

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